2026年8月15日土曜日

理不尽な立ち退き要求 ― 「一度も顔を見せず、書面だけで迫る」不動産会社の実態!

長年同じ場所で真面目に商売を続けてきた店に、ある日突然「出て行ってほしい」という話が降ってくる。しかもその求め方が、法律の建前も、人としての最低限の礼儀も無視したものだったとしたら――今回は、私が実際に相談を受けた、ある老舗焼肉店の立ち退き交渉の話をしたいと思います。個別の店名・社名は伏せますが、これは決して特殊な事例ではなく、賃貸物件を借りて商売をしている人なら誰にでも起こりうる話です。

社員という肩書だけ名乗り、一方的に書面を送りつけてくる

この店舗は、ある建物の1階で数十年にわたって同じ業態の飲食店を続けてきました。数年前、その建物の所有者(オーナー会社)が変わりました。しばらくすると、このオーナー会社の社員という立場の人物から、「立ち退いてほしい」という話が出てきます。

ここで驚くのは、その伝え方です。この人物は、これまで一度も店に挨拶に来たことがなく、「自分はオーナー会社の社員である」ということだけ、「私が担当です」と。ただ、一方的に書面を郵送で送りつけてくるだけ。後は店舗にはず電話があるだけです。

後は店舗にはず電話があるだけです。

長年その場所で商売を続けてきた店に対して、契約の重大な変更や立ち退きを求めるのであれば、まず顔を合わせて事情を説明し、経緯を理解した上で話をするのが、商売をする者同士の最低限の礼儀だと思います。それを一切せず、電話をしてきたり、紙一枚を送って済ませようとする姿勢そのものが、この話の異常さを物語っています。

「立ち退いてほしい」から「賃料を大幅に上げる」への切り替え

当初、立退料の話は一切出ないまま、ただ「出て行ってほしい」という要求だけが伝えられました。飲食店側が当然「それはおかしい」と反応すると、今度は話の切り口が変わりました。「立ち退き」という表現は引っ込み、代わりに出てきたのが「賃料改定」です。ところが、その中身を見ると、月額の賃料を一気に1.5倍以上に引き上げるという、とても現実的とは言えない金額が提示されました。しかも「この金額に応じられないなら、契約は今の条件では続けられない」というニュアンスが、行間からにじみ出ています。

これは法律を知っている人からすれば、すぐに見抜ける手口です。正当な理由(法律上「正当事由」と言います)を示さず、かつ立退料も払わずに店を出させることは、そもそも法律上できません。 ところが、正面から「立ち退け」と言うと拒否されるので、代わりに「賃料を極端に上げる」という手段を使い、店側が「それなら払えないので出ていくしかない」と自ら判断するように仕向ける。これは実質的には立ち退き要求そのものであり、貸主側が本来負うべき負担(正当事由の説明責任、立退料の支払い)を回避しようとする、悪質な手法だと言わざるを得ません。

借地借家法という法律は、賃貸物件を借りて商売をしている人(借家人)を、貸主の一方的な都合で簡単には追い出せないように保護しています。長年続けてきた契約が更新されている場合、貸主が一方的に契約を終わらせるには、建て替えの具体的な計画があるか、老朽化が著しいかなど、きちんとした理由が必要です。そして、その理由が多少弱くても、相当な立退料を提示することで、その弱さを補う、という考え方が実務上定着しています。逆に言えば、理由もなく、立退料も出さずに「出ていってほしい」は、法律的に通用しない話なのです。

一度も店に来たことがない担当者が、会社の名前で交渉している

さらに驚くのは、この交渉を進めてきた人物が、これまで一度も現地の店舗に足を運んだことがないという点です。物件の状態も、店の営業実態も、経営者が何十年この場所で商売をしてきたかも、直接見たことも聞いたこともない人物が、会社の名前で「賃料改定の最終通知」を送ってきているのです。

これは単に「愛想がない」という話ではありません。そもそもこの人物が、会社を代理して契約内容を変更する権限を本当に持っているのかどうかすら、外からは確認できないという、契約実務上、極めて危うい状態だということです。委任状の提示もなく、社員であることの説明もなく、名前だけで「最終通知」「回答期限」などと期限を切って迫ってくる。これは交渉というより、圧力をかけて相手を焦らせるための手法に見えます。

まともな不動産会社であれば、大事な契約変更や立ち退きの話を進める前に、現地を確認し、経緯を理解した上で、責任者が前面に立って話をするはずです。それをせず、素性も定かにしない人物が、電話をしてきて、その次は書面だけで押し切ろうとするのは、相手を「よくわからないまま丸め込める相手」だと見ている証拠だと感じます。

弱い立場を見透かして搾り取ろうとする構図

長年の店子(借主)というのは、その場所に根を張って生きています。移転すれば、常連客もついてくるとは限らず、内装や厨房設備を一新する費用もかかり、何より積み上げてきた「その土地でのお店」という価値そのものを失うことになります。それを理解していながら、あるいは理解しないまま、「賃料を払えないなら出ていけばいい」という態度で迫ってくる。これは、経営の知識や法律の知識に乏しい個人事業主・小規模店舗を狙って、弱い立場から搾り取ろうとする構図そのものだと感じます。

幸いにも今回のケースでは、借主側が契約書の内容を確認し、法律上の立場をしっかり整理した上で対応を進めています。感情的に反発するのではなく、「正当事由は何か」「立退料はいくらか」「そもそもこの人物に交渉権限はあるのか」と、一つひとつ筋道立てて相手に問い返す。それだけで、相手の主張がいかに根拠薄弱であったかが浮き上がってきます。

同じ立場の方へ

もし同じような「賃料の大幅な引き上げ」や「立ち退きの要求」を受けている方がいれば、まず落ち着いて、次の点を確認してください。


契約の期間や更新の条件はどうなっているか(契約書の原本を必ず確認する)

相手が提示している理由に、法律上の正当事由と言えるだけの具体性があるか

立退料についての提示が一切ないまま話が進んでいないか

交渉窓口となっている人物が、本当にその会社の社員・代理人なのか、権限の説明があるか

一度も現地を訪れず、書面だけで一方的に要求してくる相手ではないか


理不尽な要求には、慌てて応じる必要はありません。相手の主張が本当に法律的な根拠を持っているのか、まずは冷静に見極めることが何より大切です。


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